
「工務店は儲からない」という言葉を耳にして、不安を感じていませんか。
あるいは、まさに今、経営の難しさに直面している当事者の方もいらっしゃるかもしれません。
インターネットで検索すると、工務店の経営に関する厳しい情報が多く、将来性に対して悲観的になってしまうのも無理はないでしょう。
実際に、多くの工務店が利益率の低さや深刻な人手不足、後継者問題といった課題に悩まされています。
しかし、工務店は儲からないと一概に決めつけるのはまだ早いかもしれません。
この記事では、なぜ工務店は儲からないと言われてしまうのか、その根本的な原因や理由を深掘りします。
そして、その上で、厳しい状況を乗り越え、安定した経営を実現するための具体的な対策や経営改善の方法について、多角的な視点から詳しく解説していきます。
赤字経営からの脱却、顧客単価の向上、そして持続可能な会社経営の実現は、決して夢物語ではありません。
原価高騰や激化する価格競争といった外部環境の変化に対応しつつ、自社の強みを活かした経営戦略を立てることが、今後の工務店経営の鍵を握ります。
この記事を読み終える頃には、工務店は儲からないという定説を覆し、未来への希望を見出すためのヒントがきっと見つかるはずです。
- ➤工務店は儲からないと言われる根本的な理由
- ➤工務店の平均的な利益率と年収の実態
- ➤人手不足や後継者問題が経営に与える影響
- ➤儲かる工務店になるための具体的な経営改善策
- ➤DX(デジタルトランスフォーメーション)の進め方
- ➤廃業を回避し将来性を高めるための対策
- ➤効果的なブランディングによる顧客獲得方法
工務店は儲からないと言われる5つの理由
- ■厳しい利益率と価格競争の激化が理由
- ■深刻化する人手不足と後継者問題
- ■大手ハウスメーカーとの差別化の難しさ
- ■経営改善で目指す年収アップの方法
- ■会社の将来性を示す事業計画の重要性
厳しい利益率と価格競争の激化が理由
工務店の経営が厳しいと言われる最大の理由の一つが、その利益率の低さにあります。
建設業界、特に住宅建築の分野では、一般的に粗利率は20%~25%程度が目安とされています。
しかし、これはあくまで目安であり、実際にはこれを下回るケースも少なくありません。
例えば、3,000万円の住宅を請け負ったとしても、粗利は600万円から750万円程度ということになります。
この粗利の中から、事務所の家賃や光熱費、営業用車両の維持費、広告宣伝費、そして社員の給与といった販売管理費を支払わなければなりません。
最終的に手元に残る営業利益は、数パーセント程度になることも珍しくなく、場合によっては赤字に陥るリスクも常に抱えているのが実情です。
原価高騰の波
近年、この利益率をさらに圧迫しているのが、建築資材の価格高騰、いわゆる原価高騰です。
ウッドショックやアイアンショックに代表されるように、木材や鉄骨などの主要な建材の価格が世界的な需要増や物流の混乱によって急騰しました。
もちろん、その他にも断熱材や住宅設備など、あらゆるものの価格が上昇傾向にあります。
見積もりを提出してから着工するまでの間に資材価格が上昇してしまい、当初見込んでいた利益が大幅に減少するという事態も頻発しています。
この上昇分をすべて顧客に提示する価格に転嫁できれば良いのですが、次に述べる価格競争の激化がそれを困難にしています。
激化する価格競争
地域の工務店が競合するのは、他の工務店だけではありません。
テレビCMなどで高い知名度を誇り、大量仕入れによってコストを抑えた大手ハウスメーカーや、ローコスト住宅を専門に扱うビルダーも強力なライバルとなります。
顧客にとっては選択肢が多い一方で、工務店側にとっては厳しい価格競争に晒されることを意味します。
特に価格を重視する顧客に対しては、大手ハウスメーカーの規格化された商品やローコストビルダーの低価格なプランに対抗するために、自社の利益を削ってでも価格を合わせざるを得ない場面が出てきます。
このような消耗戦を続けていては、会社の体力は着実に奪われていきます。
結果として、十分な利益を確保できず、「忙しいばかりで儲からない」という状況に陥ってしまうのです。
この問題を解決するためには、単なる価格競争から脱却し、自社の価値を顧客に正しく伝え、適正な価格で受注できるような仕組みづくりが不可欠と言えるでしょう。
- 粗利率の目安は20%~25%だが、販管費を差し引くと営業利益は僅少
- ウッドショックなどによる建築資材の原価高騰が利益を圧迫
- 大手ハウスメーカーやローコストビルダーとの価格競争が激しい
深刻化する人手不足と後継者問題
利益率の問題と並行して、工務店の経営を根底から揺るがしているのが、深刻な人手不足です。
建設業界全体が抱える構造的な問題であり、特に中小規模の工務店にとっては死活問題となっています。
現場を支える職人や技術者の高齢化が著しく、長年培われてきた技術やノウハウの継承が危ぶまれています。
国土交通省の調査データを見ても、建設技能労働者のうち60歳以上が約25%を占める一方で、29歳以下は約12%にとどまっており、産業全体の平均と比較しても高齢化が顕著です。
若手入職者の減少
高齢化が進む一方で、若手の入職者は伸び悩んでいます。
これには、建設業に対して根強く残る「3K(きつい、汚い、危険)」というイメージが大きく影響していると考えられます。
労働環境や休日取得、福利厚生といった面で、他産業に比べて見劣りすると感じられることが、若者が建設業を敬遠する一因となっています。
人手不足は、単に「働き手がいない」という問題にとどまりません。
受注したくても現場を動かす職人が確保できず、機会損失につながるケースも増えています。
また、無理な工期で工事を進めざるを得なくなり、品質の低下や労働災害のリスクを高めることにもなりかねません。
人件費の高騰も経営を圧迫する要因です。
限られた職人を確保するために、以前よりも高い賃金を支払わなければならず、それが工事原価を押し上げて利益を削っていくのです。
後継者不在という課題
さらに、多くの中小工務店では、事業承継、つまり後継者が見つからないという問題も深刻です。
経営者が高齢になり引退を考えても、子どもが別の道に進んでいたり、親族内に適当な後継者がいなかったりするケースが非常に多いのが現状です。
また、従業員に承継しようにも、個人保証や借入金の引き継ぎといった金銭的な負担が大きく、なかなか引き受け手が見つかりません。
「工務店は儲からない」というイメージが、事業の承継をさらに難しくしている側面もあります。
たとえ黒字経営であったとしても、将来的な業界の先行き不安や、経営の苦労を間近で見てきた家族が引き継ぐことに難色を示すこともあります。
優れた技術や地域からの信頼があっても、後継者がいないために廃業を選択せざるを得ない工務店は、今後さらに増えていくと予想されます。
これは、単に一企業の問題ではなく、地域の住宅供給やメンテナンスを担うインフラが失われるという、社会的な損失にもつながるのです。
大手ハウスメーカーとの差別化の難しさ
工務店が儲からないと感じる背景には、大手ハウスメーカーとの競争における構造的な不利も存在します。
多くの顧客にとって、家づくりは一生に一度の大きな買い物です。
そのため、失敗したくないという思いから、テレビCMなどで頻繁に目にする知名度やブランド力のある大手ハウスメーカーに安心感を抱きがちです。
この「ブランド力」という見えない価値が、工務店にとって非常に高い壁となっています。
マーケティングと営業力の差
大手ハウスメーカーは、莫大な広告宣伝費を投じて、自社のブランドイメージを構築しています。
豪華な住宅展示場、洗練されたカタログやウェブサイト、そして巧みな営業トークを展開する専門の営業担当者。
こうした総合的なマーケティング戦略に対抗するのは、限られたリソースしかない地域の工務店にとって容易ではありません。
工務店の社長自らが営業を兼ねているケースも多く、プラン作成や現場管理といった本来の業務に追われ、営業活動やマーケティングに十分な時間を割けないのが実情です。
結果として、潜在的な顧客と出会う機会そのものが限られてしまいます。
スケールメリットによる価格と品質の安定
大手ハウスメーカーは、年間数千棟、数万棟という単位で住宅を供給しています。
そのため、建材や住宅設備をメーカーから大量に一括購入することで、仕入れコストを大幅に下げることができます。
これを「スケールメリット」と呼びますが、このコスト競争力は、年間数十棟程度の工務店では到底太刀打ちできません。
また、部材の工場生産化(プレハブ化)を進めることで、現場での作業を減らし、工期の短縮と品質の均一化を図っています。
天候に左右されにくく、職人の腕に依存する部分が少ないため、安定した品質の住宅を効率的に供給できるのです。
これに対して、工務店の家づくりは一品生産が基本であり、職人の技術力に頼る部分が大きいため、品質にばらつきが出る可能性も否定できません。
どうやって差別化を図るか
では、工務店はどのようにして大手ハウスメーカーと差別化を図れば良いのでしょうか。
価格や規模で勝負するのは得策ではありません。
工務店の強みは、設計の自由度の高さ、地域に根差したフットワークの軽さ、そして経営者や作り手の顔が見える安心感にあります。
「この会社に、この人に頼みたい」と思ってもらえるような、独自の価値を提供することが重要です。
例えば、自然素材を使った健康住宅、卓越したデザイン性の設計、高気密・高断熱といった性能への徹底的なこだわりなど、自社の得意分野を明確にし、それを求める顧客層に的確にアピールしていく必要があります。
大手にはできない、小回りの利く柔軟な対応力こそが、工務店が生き残るための最大の武器となるのです。
経営改善で目指す年収アップの方法
「工務店は儲からない」という状況を嘆くだけでなく、積極的に経営改善に取り組むことで、経営者自身の年収をアップさせることは十分に可能です。
年収を上げるためには、当然ながら会社の利益を増やす必要があります。
そのための具体的なアプローチをいくつか考えてみましょう。
利益構造の見直しと粗利率の改善
まず着手すべきは、自社の利益構造を正確に把握することです。
過去の工事案件一つひとつについて、売上、原価(材料費、労務費、外注費、経費)、そして粗利を徹底的に分析します。
どの工事で利益が出て、どの工事が利益を圧迫したのかを可視化することで、自社の強みと弱みが見えてきます。
その上で、粗利率を改善するための施策を実行します。
具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 実行予算管理の徹底:工事開始前に詳細な実行予算を組み、工事中も予算と実績を比較管理することで、無駄なコストの発生を防ぎます。
- 仕入れ先の見直し:複数の業者から見積もりを取る「相見積もり」を徹底したり、付き合いの長い業者と価格交渉を行ったりすることで、材料費の削減を図ります。
- 付加価値の高い提案:単に家を建てるだけでなく、デザイン性や性能、アフターサービスといった付加価値を高め、顧客単価を向上させます。価格競争から脱却し、「高くてもあなたにお願いしたい」と言われる存在を目指します。
生産性の向上
人手不足が深刻化する中、少ない人数で効率的に業務を回していくためには、生産性の向上が不可欠です。
ITツールやDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入は、そのための強力な武器となります。
例えば、顧客管理システム(CRM)を導入すれば、顧客情報や商談履歴を一元管理でき、営業効率が格段に上がります。
また、施工管理アプリを使えば、現場の進捗状況や図面、写真をリアルタイムで関係者と共有でき、移動時間やコミュニケーションコストを大幅に削減できます。
こうしたツールを積極的に活用し、社長や社員が「本来やるべき仕事」に集中できる環境を整えることが、結果的に会社の利益を増やし、年収アップにつながるのです。
固定費の削減
売上や粗利を増やす努力と同時に、固定費の見直しも重要です。
事務所の家賃、通信費、保険料、広告宣伝費など、毎月必ず発生するコストの中に無駄がないかを確認します。
例えば、広告宣伝費については、費用対効果の低い媒体から撤退し、WebマーケティングやSNSなど、よりターゲットに響きやすい手法に切り替えるといった判断が求められます。
一つひとつの削減額は小さくても、年間で見れば大きな利益改善につながります。
こうした地道な経営改善の積み重ねこそが、厳しい環境下でも安定した収益を確保し、経営者の年収を着実に向上させるための王道と言えるでしょう。
会社の将来性を示す事業計画の重要性
工務店が持続的に成長し、儲かる体質へと変わっていくためには、行き当たりばったりの経営から脱却し、明確な羅針盤を持つことが不可欠です。
その羅針盤の役割を果たすのが「事業計画」です。
事業計画と聞くと、金融機関から融資を受ける際に作るもの、というイメージが強いかもしれませんが、その本質は自社の未来を描き、そこへ至る道筋を具体的に示すための設計図です。
なぜ事業計画が必要なのか
事業計画を策定する目的は多岐にわたります。
- 経営の方向性の明確化:自社がどこを目指すのか(ビジョン)、そのために何をすべきか(戦略)を具体的に言語化することで、経営判断のブレがなくなります。
- 社内の意識統一:社長が考えていることを社員と共有することで、組織全体が同じ目標に向かって進むことができます。これは、社員のモチベーション向上にも繋がります。
- 外部からの信頼獲得:金融機関はもちろん、取引先や顧客に対しても、計画性を持って事業に取り組んでいる姿勢を示すことができ、会社の信頼性を高めます。
- 後継者へのバトン:事業承継を考える上でも、事業計画は極めて重要です。会社の現状と将来の展望が具体的に示されていることで、後継者も安心して事業を引き継ぐことができます。
特に「工務店は儲からない」というネガティブなイメージを払拭し、会社の将来性を示す上で、事業計画の存在は大きな意味を持ちます。
人手不足が叫ばれる中、若い人材に「この会社で働きたい」と思ってもらうためには、給与や待遇だけでなく、会社の成長性やビジョンに共感してもらうことが重要になるからです。
事業計画に盛り込むべき内容
では、具体的にどのような内容を盛り込めば良いのでしょうか。
一般的には、以下のような要素が含まれます。
1. 企業概要と経営理念:会社の基本情報と、どんな想いで事業を行っているのかを示します。
2. 事業ドメインとターゲット顧客:「誰に」「何を」「どのように」提供するのかを明確に定義します。例えば、「子育て世代に、自然素材を使った高性能なデザイン住宅を、丁寧なコミュニケーションを通じて提供する」といった具合です。
3. 市場環境と競合分析:自社が置かれている市場の状況や、競合となる他社の強み・弱みを分析し、自社の立ち位置を客観的に把握します。
4. 提供する商品・サービスの強み:他社にはない、自社独自の価値(USP: Unique Selling Proposition)は何かを明確にします。
5. マーケティング・営業戦略:ターゲット顧客にどのようにアプローチし、受注につなげるかの具体的な計画を立てます。
6. 数値計画(収支計画・資金繰り計画):3~5年後までの売上、費用、利益の目標を具体的な数値で示します。これが計画の根幹となります。
計画は立てて終わりではありません。定期的に進捗を確認し、状況の変化に応じて柔軟に見直していく「PDCAサイクル」を回すことが、計画を絵に描いた餅にしないために最も重要です。
明確な事業計画を持つことで、日々の業務に追われるだけでなく、会社の将来を見据えた戦略的な一手を打つことができるようになるのです。
工務店は儲からない状況を打開する経営戦略
- ■廃業を避けるための具体的な対策とは
- ■DX推進による業務効率化のポイント
- ■顧客獲得のためのブランディング強化
- ■まとめ:工務店は儲からない定説を覆す
廃業を避けるための具体的な対策とは
「工務店は儲からない」という厳しい現実の中で、後継者不足や経営悪化を理由に廃業を選択する会社は少なくありません。
しかし、これまで培ってきた技術や地域からの信頼を失うことは、非常にもったいないことです。
廃業という最悪の事態を避けるためには、早期から具体的な対策を講じる必要があります。
財務状況の健全化
まず基本となるのが、会社の財務状況を健全に保つことです。
赤字経営が続けば、いずれ資金繰りは破綻します。
前述の通り、工事ごとの原価管理を徹底し、不採算案件をなくす努力が不可欠です。
同時に、キャッシュフロー(お金の流れ)を常に意識した経営を心がけましょう。
売上は立っていても、入金が数ヶ月先になるのが建設業の常です。
その間の支払い(材料費や人件費)に窮しないよう、手元の資金には常に余裕を持たせておく必要があります。
資金繰り表を作成し、数ヶ月先の資金の動きを予測する習慣をつけることが、突然の資金ショートを防ぐ上で極めて重要です。
また、不要な資産(使っていない土地や重機など)を売却して現金化したり、金融機関と良好な関係を築き、いざという時に融資を受けられる体制を整えておくことも大切な対策です。
事業承継の早期準備
後継者不足による廃業を防ぐには、何よりも早期からの準備が鍵となります。
経営者が元気なうち、理想を言えば60歳を迎える頃には、事業承継を具体的な経営課題として捉え、準備に着手すべきです。
親族や従業員に後継者候補がいる場合は、早い段階から経営に関わらせ、帝王学を授ける必要があります。
一方、候補者がいない場合は、第三者への承継(M&A)も有力な選択肢となります。
近年は、事業を譲りたい中小企業と、事業を譲り受けたい企業や個人とをマッチングさせるM&Aプラットフォームも増えています。
「会社を売る」ことに抵抗を感じる経営者もいるかもしれませんが、これは従業員の雇用を守り、会社の技術やブランドを後世に残すための有効な手段です。
専門家のアドバイスを受けながら、自社にとって最適な承継方法を探ることが、廃業を回避する道につながります。
事業の多角化と安定収益の確保
新築の請負一本足打法では、景気の波や受注の変動に経営が大きく左右されます。
経営を安定させるためには、リフォームやリノベーション、不動産仲介、メンテナンス事業など、複数の収益の柱を持つ「事業の多角化」を検討することも有効な対策です。
特に、OB顧客からのリフォームやメンテナンス受注は、新規顧客を開拓するよりも営業コストが低く、安定した収益源となり得ます。
定期点検などを通じて顧客との関係性を維持し、「家のことなら何でも相談できる」という信頼関係を築くことが、ストック型のビジネスモデルへの転換を可能にするのです。
こうした地道な対策を一つひとつ実行していくことが、廃業のリスクを遠ざけ、持続可能な経営を実現する礎となります。
DX推進による業務効率化のポイント
工務店の経営課題である「人手不足」と「利益率の低さ」を同時に解決する可能性を秘めているのが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。
DXと聞くと、何か難しいことのように感じるかもしれませんが、要はデジタル技術を活用して、業務のやり方を根本から見直し、効率化を図る取り組みのことです。
アナログな慣習が多く残る工務店業界だからこそ、DXによる改善の余地は大きいと言えます。
情報共有の効率化
工務店の業務では、社長、営業、設計、現場監督、そして協力業者の職人といった多くの関係者が関わります。
これらの関係者間での情報共有がスムーズに行かないと、伝達ミスや手戻りが発生し、大きな無駄につながります。
電話やFAX、口頭でのやり取りが中心では、「言った・言わない」のトラブルも起こりがちです。
ここで活躍するのが、施工管理アプリやビジネスチャットツールです。
図面や仕様書、現場写真、工程表といった最新情報をクラウド上で一元管理し、関係者全員がスマートフォンやタブレットからいつでも確認できるようにします。
これにより、移動中や現場からでもリアルタイムな情報共有が可能となり、コミュニケーションの速度と正確性が劇的に向上します。
現場監督が事務所に戻ってから報告書を作成するといった時間も削減でき、残業時間の短縮にもつながるでしょう。
顧客管理・営業活動の効率化
見込み客へのアプローチから、商談、契約、そして引き渡し後のアフターフォローまで、顧客との関わりは多岐にわたります。
これらの情報を個々の営業担当者の記憶や手帳だけに頼っていると、対応漏れが起きたり、担当者が不在の際に他の人が対応できなかったりします。
CRM(顧客関係管理)やSFA(営業支援)といったツールを導入することで、顧客情報、商談の進捗状況、過去のやり取りなどを一元的に管理できます。
これにより、組織的な営業活動が可能となり、顧客満足度の向上と受注確度のアップが期待できます。
例えば、定期点検の時期が近づいたOB顧客のリストを自動で抽出し、アプローチをかけるといった活用も可能です。
設計・積算業務の効率化
BIM(Building Information Modeling)の導入も、工務店のDXにおける重要なポイントです。
BIMは、コンピューター上に3次元の建物のモデルを作成し、そこにコストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加したデータベースを構築する仕組みです。
3Dモデルで設計を行うため、顧客にも完成イメージが伝わりやすく、合意形成がスムーズになります。
また、平面図と立面図の整合性を気にする必要がなくなり、設計変更にも迅速に対応できます。
さらに、BIMモデルから部材の数量を自動で算出できるため、これまで時間と手間がかかっていた積算業務の大幅な効率化が可能です。
DXは単なるツールの導入ではなく、会社の文化や働き方を変える変革です。
最初は戸惑うこともあるかもしれませんが、スモールスタートで成功体験を積み重ねながら、会社全体で取り組んでいくことが成功の鍵となります。
顧客獲得のためのブランディング強化
価格競争から脱却し、「工務店は儲からない」という状況を打破するためには、自社の「ブランド」を確立し、その価値を顧客に正しく伝える取り組みが不可欠です。
ブランディングとは、単にロゴマークを作ったり、おしゃれなウェブサイトを構えたりすることではありません。
「〇〇(自社名)といえば、△△な家づくりをしてくれる会社」という、顧客の心の中に明確なイメージを築き上げ、他社との違いを際立たせる活動全般を指します。
自社の「強み」を定義する
ブランディングの第一歩は、自分たちの強み、つまり「USP(Unique Selling Proposition)」を明確に言語化することです。
「私たちは、どんなお客様に、どんな価値を提供できるのか?」
これを徹底的に掘り下げて考えます。
例えば、以下のような切り口が考えられます。
- デザイン性:「建築家と建てるような、洗練されたデザインの家」
- 住宅性能:「夏は涼しく冬は暖かい、日本トップクラスの高気密・高断熱住宅」
- 自然素材:「無垢材や漆喰など、家族の健康を守る自然素材にこだわった家」
- コンセプト:「趣味のアウトドアを最大限に楽しむための家」「共働き夫婦の家事動線を考え抜いた家」
重要なのは、あれもこれもと欲張らず、自社の最も自信のある分野に絞り込むことです。
「安くて良い家」というような曖昧なメッセージでは、誰の心にも響きません。「この分野なら誰にも負けない」という旗を鮮明に掲げることが、ブランディングの始まりです。
ターゲット顧客に届ける情報発信
自社の強みが明確になったら、次はその強みを求めているであろう「ターゲット顧客」に向けて、継続的に情報発信を行います。
現代において、その中心となるのはウェブサイトやSNSです。
自社のウェブサイトでは、施工事例を数多く掲載することが極めて重要です。
美しい写真だけでなく、その家が完成するまでのストーリーや、施主がどんな想いで家づくりをしたのかといった背景も丁寧に伝えることで、見る人の共感を呼びます。
また、家づくりに関する専門的な知識やノウハウを解説するブログ記事(コンテンツマーケティング)も有効です。
「この会社は、家づくりに詳しくて信頼できそうだ」という専門家としてのポジションを確立することができます。
InstagramやYouTubeでは、完成した家のルームツアー動画や、家づくりの過程を発信することで、よりリアルな魅力を伝えることが可能です。
こうした情報発信を通じて、自社のファンを増やしていくのです。
ファンになってくれた顧客は、価格だけで会社を選びません。「この会社にお願いしたい」という強い動機があるため、適正な価格での受注につながりやすく、結果として利益率の改善にも貢献します。
ブランディングは一朝一夕に成果が出るものではありませんが、地道に続けることで、会社の経営を安定させる強力な資産となるのです。
まとめ:工務店は儲からない定説を覆す
この記事では、「工務店は儲からない」と言われる理由から、その状況を打開するための具体的な経営戦略まで、幅広く解説してきました。
厳しい利益率、人手不足、大手との競争など、工務店経営を取り巻く環境が厳しいことは事実です。
しかし、それぞれの課題に対して、打つべき手は確実に存在します。
原価管理を徹底して利益構造を見直し、DXによって生産性を向上させる。
そして、自社の強みを活かしたブランディングによって、価格競争から脱却する。
これらの取り組みを一つひとつ着実に実行していくことで、会社の収益性は必ず改善します。
「工務店は儲からない」というのは、決して変えられない運命ではありません。
むしろ、それは旧来の経営スタイルを続けている場合の結果論と言うべきでしょう。
会社の現状を正確に分析し、明確なビジョンと事業計画を掲げ、時代に合った経営へと変革していく勇気と実行力があれば、道は必ず開けます。
この記事が、自社の経営を見つめ直し、未来へ向かって新たな一歩を踏み出すためのきっかけとなれば幸いです。
- ➤工務店は儲からないと言われる主因は低い利益率にある
- ➤建築資材の原価高騰が利益をさらに圧迫している
- ➤大手ハウスメーカーとの価格競争が経営を難しくする
- ➤建設業界全体の深刻な人手不足と職人の高齢化が課題
- ➤後継者不在による事業承継問題も廃業の一因となる
- ➤知名度や営業力で大手との差別化が難しいという現実がある
- ➤経営改善には工事ごとの利益構造の可視化が不可欠
- ➤付加価値提案による顧客単価アップが利益率改善の鍵
- ➤会社の将来性を示すためには明確な事業計画が重要となる
- ➤廃業を避けるには財務の健全化と早期の事業承継準備が必要
- ➤DX推進は人手不足と低利益率を解決する強力な手段
- ➤施工管理アプリなどが情報共有を効率化し生産性を高める
- ➤独自の強みを定義するブランディングで価格競争から脱却する
- ➤ウェブサイトやSNSでの継続的な情報発信がファンを育てる
- ➤工務店は儲からないという定説は経営努力で覆すことが可能